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長安口ダム

(ながやすぐち)

長安口ダムは、徳島県那賀郡那賀町に位置し、一級河川である那賀川本川の上流部に建設されたダムです。徳島県が施工・管理を行っていた県営ダムとして始まりましたが、近年の異常気象を背景に、2007年(平成19年)より国土交通省四国地方整備局に管理が移管され、現在は国土交通省直轄のダムとなっています。

高さ85.5メートルの重力式コンクリートダムであり、ダムの規模としては徳島県内で最大を誇ります。本ダムの役割は、那賀川の治水に加えて水力発電を行う補助多目的ダムとして、阿南市を含む下流域に対する上水道および工業用水の供給を担っています。那賀川水系において最も重要なダムの一つであり、長安口ダムの貯水率は徳島県南部の経済活動にも大きな影響を与えます。

地理的特徴

那賀川は徳島県の第一の大河川であり、剣山山系の次郎笈(じろうぎゅう)から発し、蛇行しながら歩危峡(ぼけきょう)や鷲敷(わじき)ラインなどの峡谷を形成しつつ、最終的には阿南市で紀伊水道に注ぎます。長安口ダムは、那賀川とその支流である坂州木頭川が合流する直下に位置しています。

また、上流には高さ62.5メートルのアーチ式コンクリートダムである小見野々(こみのの)ダムが、下流には高さ30メートルの重力式ダムである川口ダムが建設されています。これら三つのダムは「那賀川上流ダム群」と総称され、長安口ダムはこの中でも重要な役割を担っています。

ダム名の由来

長安口ダムの名称は、その所在地である長安地区の入り口に建設されたことに由来しています。なお、ダム完成時の自治体は那賀郡上那賀町でしたが、平成の大合併によって木沢村や木頭村などと合併し、現在は那賀町となっています。

ダム建設の沿革

治水の必要性

那賀川流域は台風の進路に位置し、年間降水量が約3,200ミリに達する多雨地域です。このため、急流かつ河川勾配の大きい那賀川は度々氾濫し、流域には甚大な水害をもたらしてきました。こうした背景から、1929年(昭和4年)より内務省の直轄事業として河川改修が開始され、治水対策が進められてきました。

しかし、1950年(昭和25年)に発生したジェーン台風により、計画されていた洪水量を大きく超える毎秒9,000立方メートルの洪水が発生し、再び大きな被害をもたらしました。これを契機に、ジェーン台風時の洪水量を基準とした河川改修が再検討され、その調整役としてダム建設が重要視されるようになりました。

利水と電力供給の必要性

那賀川流域では農地拡大に伴い、農業用水の不足が深刻化していました。また、阿南市に製紙工場を抱えていたことから、工業用水の安定供給も課題となっていました。さらに、徳島県では港湾整備と広大な土地を利用した工業地帯の建設計画が進められており、水力発電がその計画の重要な要素として考えられていました。

那賀川総合開発計画の始まり

1950年の国土総合開発法の施行に伴い、那賀川流域は「テネシー川流域開発公社(TVA)方式」に倣った河川開発計画の対象となり、徳島県は那賀川総合開発計画を立案しました。この計画の第一期事業として、長安口ダムの建設が決定されました。

補償問題

住民との交渉

長安口ダムの建設に伴い、那賀町や木沢村の106世帯が水没対象となりました。1953年(昭和28年)に住民との団体交渉が始まりましたが、補償額などの基準で合意に至らず、交渉は翌年に決裂しました。その後、個別交渉が進められましたが、一部の住民は強硬に反対し、交渉は1955年まで続きました。最終的には徳島県議会の仲介により、補償が妥結されました。

漁業権と林業の補償

那賀川流域では漁業も重要な産業でした。漁業権を持つ那賀川漁業協同組合連合会はダム建設に強く反対しましたが、交渉を重ねた末に解決が図られました。また、ダム建設によって筏流しが不可能となり、流筏業者1,037名にも補償が行われ、代替として林道の敷設や林業振興策が講じられました。

ダムの目的

洪水調節

長安口ダムの主な目的は、洪水調節です。ジェーン台風を基準に、100年に1度の洪水を想定し、計画高水流量を毎秒6,400立方メートルから5,400立方メートルに減少させることを目指しています。このため、強力な水圧に耐えられる6門の水門が設けられています。

利水

阿南市や小松島市、那賀郡の農地7,300ヘクタールに対し、最大で毎秒30立方メートルの農業用水を供給しています。また、王子製紙と日本製紙が保有する工業用水利権の供給も行っています。

水力発電

長安口ダムは、下流にある日野谷発電所で6万2,000キロワットの水力発電を行っています。フランシス水車を用いた発電で、工業地帯への電力供給も担っています。

まとめ

長安口ダムは、徳島県における治水、利水、電力供給の要としての役割を果たしており、その存在は地域経済や産業にとって極めて重要です。一方で、建設に伴う補償交渉は長期間にわたり、多くの住民や漁業者に影響を与えました。現代においても、長安口ダムの貯水率や運用は、徳島県南部の経済活動に深く関わっており、その役割はますます重要になっています。

Information

名称
長安口ダム
(ながやすぐち)

阿南・日和佐(美波)

徳島県