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太龍寺

(たいりゅうじ)

太龍寺は徳島県阿南市加茂町に位置する高野山真言宗の寺院で、四国八十八箇所霊場の第二十一番札所として有名です。舎心山(しゃしんざん)、常住院(じょうじゅういん)と号し、本尊には虚空蔵菩薩を祀っています。また、阿波秩父観音霊場の第10番札所でもあり、巡礼者にとって重要な拠点となっています。

歴史

創建と空海の修行

太龍寺は、空海(弘法大師)が24歳の時に著した『三教指帰(さんごうしいき)』の序文に「阿國大瀧嶽に…勤念す」と記されている場所であり、大瀧嶽とは現在の大竜寺山と考えられています。19歳で都の学問を断念した空海は、太龍寺の西にある舎心嶽で百日間の虚空蔵求聞持法を修行したと伝えられています。その際、彼を守護した龍神にちなみ「太龍寺」と名付けられました。

天皇や武家からの保護

延暦12年(793年)、桓武天皇の勅願によって阿波の国司・藤原文山が伽藍を建立しました。空海自身が虚空蔵菩薩像を刻み、堂塔に安置したと伝えられています。さらに、天長2年(825年)には淳和天皇から寺領が寄進され、嘉保2年(1095年)には白河上皇の命により東寺の長範によって再興されました。

戦国時代の焼失と再興

寺は長年、皇室や武家から篤い信仰を集めましたが、天正年間(1573年 - 1592年)に長宗我部元親の兵火で焼失してしまいます。しかし、後に徳島藩主蜂須賀家の保護を受け、再建が進められました。

近代以降の変遷

戦後、山中の厳しい環境により寺は困窮し、昭和34年(1959年)には三重塔を失いました。しかし、1992年に太龍寺ロープウェイが開通し、巡礼者が容易にアクセスできるようになったことや、遍路ブームの到来により再び隆盛期を迎えました。

境内の見どころ

山門(仁王門)

山門は、仁王像が守護する威厳ある門で、参拝者を迎える入り口です。仁王像は鎌倉時代に制作されたもので、徳島県内最大かつ最古のものとして知られています。

鐘楼門

鐘楼門は、本堂へ続く石段の途中に位置しています。風格ある門は、参拝者の心を清める役割を果たしています。

本堂

本堂には、本尊として高さが天井に達する大きな半丈六仏(はんじょうろくぶつ)が祀られています。この仏像は毎年1月12日に開帳され、その後法要が行われます。開帳の際には、正午頃から15時頃まで本堂の中に入って参拝が可能です。通常は、厨子の扉が朝から開いており、外からの拝観も可能です。

大師堂

大師堂は、弘法大師空海を祀る堂で、毎年旧暦3月21日に開帳されます。現在の建物は明治11年(1878年)に再建されました。

持仏堂

持仏堂の天井には、高知県出身の画家竹村松嶺が描いた龍の絵が飾られています。大廊下にあるこの絵は、参拝者に深い感銘を与えています。

六角経蔵

六角経蔵は、六角形の形状を持つ経蔵で、仏教経典を収めた場所として知られています。

護摩堂

護摩堂の本尊には、興教大師作と伝わる不動明王が祀られています。不動明王は参拝者の願いを叶え、災いを退ける力を持つとされています。

弁天堂(祠)

弁財天を祀る小さな祠で、商売繁盛や芸能、学問の守護神として信仰されています。

多宝塔

1861年に建立された多宝塔には、五尊の虚空蔵菩薩が安置されています。虚空蔵菩薩は智慧や財宝を授けるとされ、その真言「おん・ばじら・らたな・あ・あー・あん・あーん・そわか」は参拝者の念仏として唱えられます。

求聞持堂

求聞持堂は、虚空蔵求聞持法を修行するための道場です。全国に三ヶ所しかない求聞持法の修行道場の一つで、修行者にとって特別な場所とされています。

中興堂

中興堂には、平安時代後期の第四世長範僧正および江戸時代前期の第二十二世亮山僧正が祀られています。

鎮守社

鎮守社は、五社明神(蛭子大明神、天照皇太神、厳島大明神、鹿嶋大明神、三輪大明神)を祀っています。これらの神々は、寺院や周辺地域の守護神として崇敬されています。

相輪橖(そうりんとう)

相輪橖は、文化13年に建てられた仏教塔です。境内に立つこの塔は、信仰の象徴として崇められています。

句碑

本堂への石段の下には、種田山頭火の句碑が建てられています。そこには「分け入っても分け入っても青い山」と刻まれており、山中を巡る遍路道の静寂と美しさを表現しています。

参拝ルート

山門を通り、長い参道を進むと、右側に六角経蔵、護摩堂、持仏堂(本坊)、納経所があります。さらに先の石段を上っていくと、途中に鐘楼門が設けられています。この石段を登り切り、左に進むと本堂があり、その左後ろには求聞持堂が立っています。右に進むと橋を渡った先に大師堂拝殿があり、履物を脱いで回廊を回ると、奥殿にも参拝できます。

また、ロープウェイを利用する場合、山頂駅の前にある石段を上ると本堂の正面に出ます。自然に囲まれたこのルートは、参拝者に四国の山々の美しさを感じさせてくれます。

年中行事

初会式(1月12日)

毎年1月12日午前11時から、年に一度の本尊開帳が行われます。開帳後、正午頃から15時頃まで本堂内での参拝が可能です。

旧正御影供(旧暦3月21日)

旧暦3月21日には、大師像の開帳が行われます。この日は、多くの参拝者が集まり、大師空海への敬意を表します。

仏生会(旧暦4月8日)

仏生会は、釈迦の誕生日を祝う行事で、甘茶の接待が行われます。この日は、寺院全体が釈迦の教えを再確認する機会となります。

除夜の鐘(12月31日)

大晦日には、午後11時半から除夜の鐘が一般参加者にも開放されます。108回の鐘を撞くことで、煩悩を祓い、新年を清らかな気持ちで迎えることができます。

文化財

国の史跡「阿波遍路道 太龍寺道」

太龍寺は、多くの文化財に指定されています。特に、「阿波遍路道 太龍寺道」は、杉井集落から太龍寺までの約4.3kmの一部が国の史跡に指定されています。この道は、遍路道として歴史的な価値を持ち、平成22年(2010年)8月5日に指定されました。

また、「阿波遍路道 かも道」や「いわや道」など、太龍寺周辺の道も史跡として保護されており、巡礼者たちが辿った道を後世に伝える貴重な文化財となっています。

国の登録有形文化財

太龍寺の本堂、大師堂、護摩堂、多宝塔、六角経蔵など、多くの建物が国の登録有形文化財として登録されています。これらの建造物は、寺院の歴史と共に保存され、その美しさと歴史的価値は参拝者に深い感動を与えます。

県の史跡

徳島県の史跡としては、太龍寺の丁石が指定されています。これらの石は、巡礼者たちが道中の目印としたもので、歴史的な重要性を持っています。

アクセス情報

鉄道

JR四国の牟岐線「桑野駅」が最寄り駅で、そこから約9.5 kmの距離に太龍寺があります。また、太龍寺ロープウェイを利用すれば、山頂駅まで約11分で到達でき、参拝が容易になります。

バス

徳島バス南部の丹生谷線「阿瀬比」バス停下車後、6.3 kmの距離に太龍寺があります。ロープウェイの山麓駅も近く、観光客にとって便利なアクセス手段です。

一般道では徳島県道28号阿南小松島線を利用し、太龍寺駐車場から徒歩で約1.1 kmの距離です。また、徳島県道19号阿南鷲敷日和佐線を経由することもできます。

奥の院

南舎心ヶ嶽

南舎心ヶ嶽は、弘法大師が19歳の頃、この場所で「虚空蔵求聞持法」を100日間修行したと伝えられています。現在では、その修行を偲んで大師像が断崖の岩場に鎮座し、高野山を向いています。ロープウェイ山上駅の脇から始まる八十八ヶ所の石像巡りを行いながら進むと、祠やモニュメントが点在し、背後に大師像の姿を見ることができます。

この大師像は、弘法大師入山1,200年を記念して1993年にブロンズ製で造られました。かつてこの場所には九尺の不動堂があったとされています。

北舎心ヶ嶽

北舎心ヶ嶽は、不動明王の眷属である八大童子が祀られている祠があり、参拝者を迎えています。仁王門から本坊へ向かう参道の途中から、約100メートル脇道にそれると、大きな岩に梯子がかけられ、その上に祠が建っています。この場所も多くの参拝者が訪れる、太龍寺の見どころの一つです。

周辺の名所

黒滝寺

太龍寺と同様に修行の地として知られる黒滝寺は、空海が太龍ヶ嶽で修行中に、神童からのお告げを受けた場所です。この寺には、空海が黒滝山頂に棲む大龍を淵に封じ込めたという伝説が残っています。山岳仏教の発祥地ともされており、歴史的な価値のある場所です。黒滝寺は新四国曼荼羅霊場の第88番札所としても知られています。

所在地

徳島県那賀郡那賀町阿津江字黒滝山5

蛭子神社

蛭子神社は、空海が太龍寺を建立する以前に、この地に導いたと伝えられる神様が祀られています。太龍寺ロープウェイ麓駅の近くに位置し、赤い橋「田野橋」で那賀川を渡ってすぐのところにあります。地元の人々に親しまれている神社です。

所在地

徳島県那賀郡那賀町和食154

氷柱観音

太龍寺ロープウェイ麓駅の近くにある氷柱観音は、県道19号線からほど近い斜面に位置しています。参道を上っていくと本堂があり、そのさらに上には赤い堂が見えます。堂の右側には竪穴があり、その岩盤にはつらら状の模様が見られるため「氷柱観音」と呼ばれています。

所在地

徳島県那賀郡那賀町和食郷

一宿寺

阿波遍路道の「かも道」の起点として知られる一宿寺は、太龍寺の丁石が残る歴史的な場所です。登口には丁石が立っており、参拝者はそこから歩き始めることができます。また、県の史跡にも指定されており、歴史ファンにも人気のスポットです。

所在地

徳島県阿南市加茂町宿居谷5

あせび観音庵

太龍寺の麓に位置するあせび観音庵は、阿波遍路道「いわや道」から続く平等寺道の途中にあります。観音堂が立つ場所からは美しい景色を眺めることができ、観音信仰の一端に触れることができます。

所在地

徳島県阿南市阿瀬比町西内

若杉山辰砂採掘遺跡

太龍寺の北へ延びる「太龍寺道」に沿って杉木立に囲まれた谷のほとりにあるのが、若杉山辰砂採掘遺跡です。ここでは、古代に辰砂(朱砂)が採取されていたとされる遺跡が発見されており、考古学的にも貴重な場所です。歴史や自然を感じながら散策するのに最適なスポットです。

所在地

徳島県阿南市水井町

四国八十八箇所霊場との関連

太龍寺は、四国八十八箇所霊場の第二十一番札所として位置しており、多くの遍路がここを訪れます。前後の札所は以下の通りです。

前後の札所

阿波秩父観音霊場との関連

太龍寺は、阿波秩父観音霊場の第10番札所でもあります。前後の札所は以下の通りです。

前後の札所

太龍寺へのアクセスと観光のヒント

太龍寺へは、太龍寺ロープウェイを利用してアクセスするのが便利です。山頂までの景色を楽しみながら訪れることができ、ロープウェイからは徳島の美しい風景が一望できます。山岳仏教の修行の地としての歴史を感じながら、ゆったりと観光を楽しんでください。

Information

名称
太龍寺
(たいりゅうじ)

阿南・日和佐(美波)

徳島県