人形浄瑠璃に由来するユニークな名前
この料理の名称「でこまわし」は、徳島で盛んだった人形浄瑠璃にちなんで名づけられたものです。「でこ」とは、浄瑠璃人形の頭部(木偶)を意味し、囲炉裏の周りで串を回転させながら焼く様子が、木偶の頭がくるくると回る姿に似ていたことから「でこまわし」と呼ばれるようになりました。見た目もユニークで、旅の思い出に残る料理として人気があります。
囲炉裏でじっくり焼く、地元食材を活かしたヘルシーな串焼き
でこまわしに使用される食材はすべて地元で親しまれているものばかりです。特に注目すべきは「ごうしゅういも」と呼ばれる地元産の小ぶりなじゃがいも。煮くずれしにくく、ほくほくとした食感が特徴で、串焼きに最適です。また、そば粉を使ったそば団子や、地元産の木綿豆腐「岩豆腐」、丸こんにゃくなど、素朴ながらもしっかりとした味わいの素材が使われています。
使用される主な食材
- ごうしゅういも:小ぶりで煮崩れしにくい地元産のじゃがいも
- 岩豆腐:水分が少なく、しっかりとした食感を持つ木綿豆腐
- 丸こんにゃく:串に刺しやすく、火を通しても崩れにくい
- そば団子:そば粉を水で練って茹でた団子
調理の工程と味の工夫
でこまわしの調理は、下ごしらえに始まり、焼きの工程にも一工夫が施されています。まず、じゃがいもやこんにゃくをやわらかくなるまで茹で、そば粉を練って丸めた団子も茹でておきます。次に、これらを一口大にカットした岩豆腐とともに竹串に順番に刺していきます。
串はまず囲炉裏で素焼きし、香ばしさを引き出したあと、特製の味噌だれをたっぷりと塗って、さらに回しながら焼き上げます。この味噌だれには、甘辛くコクのある味噌が使われ、焼くことで香ばしさが引き立ち、具材とよくなじみます。
味噌だれの一例
- 地元味噌
- みりん
- 砂糖
- だし汁
日常からおもてなしまで活躍する一品
かつてでこまわしは、家庭の囲炉裏で日常的に食べられていた素朴な家庭料理でした。具材の順番は家庭によって異なるものの、こんにゃくが滑り止めの役割を果たすため、一番下に刺すのが一般的です。特にじゃがいもの収穫期には、「ごうしゅういも」だけで作られることもあり、地域の人々にとって身近な料理として親しまれてきました。
現在では、地元の観光施設や郷土料理店などでも提供されており、祖谷地方を訪れる観光客にとっても人気のある一品となっています。素朴ながらもしっかりとした味わいと、見た目のユニークさが好評で、旅の思い出として写真を撮る人も少なくありません。
旅の途中に出会う、心温まる郷土の味
囲炉裏で焼く音、香ばしい味噌の香り、ほくほくとした食感のじゃがいも。でこまわしは、祖谷地方の自然と歴史、そして人々の暮らしが詰まった温もりのある郷土料理です。旅の途中にふと出会ったら、ぜひその味をじっくりと味わってみてください。きっと忘れられない旅のひとときになるはずです。