箸蔵寺は、徳島県三好市池田町州津に位置し、真言宗御室派別格本山の寺院です。寺号は宝珠山(ほうしゅざん)、真光院(しんこういん)と号し、本尊には金毘羅大権現を祀っています。箸蔵寺は、四国別格二十霊場第十五番札所や四国三十六不動霊場など、複数の霊場札所としても知られ、多くの巡礼者が訪れます。
この寺院の象徴とも言える本尊の真言は「おん くびらや そわか」であり、参拝者は御詠歌「いその神 ふりにし世より 今もなほ 箸運ぶてふ ことの尊き」を唱えます。また、箸蔵寺の納経印には「御影」があり、さまざまな霊場の札所としての役割が広く認知されています。
箸蔵寺の歴史は平安時代にまで遡ります。伝承によれば、天長5年(828年)に空海(弘法大師)が四国を巡錫中、当地で霊気を感じ山上に登った際、金毘羅大権現のお告げを受けました。そのお告げは「箸を挙ぐる者、我誓ってこれを救はん」というものであり、これをきっかけに空海は自ら金毘羅大権現の像を刻み、堂宇を建立しました。
また、讃岐の金刀比羅宮との関係も深く、かつては「こんぴら奥の院」とも称されていました。江戸時代後期には箸蔵寺と金比羅宮を両参りすることで、霊験が倍増するとされ、両寺を巡礼する風習が広まりました。
箸蔵寺の仁王門は、参拝の入口にあたる山門です。この門の手前には駐車スペースがあり、そこから本堂(方丈)までは徒歩約30分かかります。仁王門をくぐることで、本格的な参拝が始まります。
仁王門の前には「高灯籠」がそびえています。これは、かつて吉野川を行き来する舟の目印として使用されていたもので、寺院と地域の歴史的な繋がりを示しています。
箸蔵寺の伽藍内には「蔵谷の行場」と呼ばれる特別な修行場があります。この行場は、山門の下の谷間に位置し、精神修養の場として古くから信仰を集めてきました。また、桜の馬場、一の鳥居、太鼓橋、二の鳥居といった名所も見逃せません。
方丈エリアに入るとまず目に入るのが「中門」です。これは、寺院の中心部である方丈(本坊)への入口です。
方丈は、箸蔵寺の本堂とも言える建物であり、奥には非公開の漆黒の大師像が安置されています。この場所には納経所や事務所もあり、参拝者の対応が行われます。
護摩殿は、三重構造の拝殿・中殿・奥殿で構成されています。中殿には護摩壇があり、右に赤不動、左に大黒天が鎮座し、奥殿には金毘羅大権現が祀られています。この場所では、1200年続くと伝わる朝夕の護摩が現在も行われています。2019年には「成りきり本尊展望壇」が新たに設置され、より一層参拝者に開かれた場所となっています。
護摩殿の前には、市川團十郎が寄進した一対の灯籠があります。七代目市川海老蔵によって寄進され、その子供たちの名前が刻まれたこの灯籠は、江戸時代の芸能界と寺院の結びつきを感じさせます。
令和堂は、八供養菩薩のうち金剛歌菩薩を祀る堂です。将来的には、大随求菩薩も祀られる予定です。
箸蔵寺には「ぼけ封じ観音像」が安置されています。この鋳造された観音像は、四国三十三観音霊場および百八観音霊場の札所として、多くの参拝者が訪れます。
方丈から本殿へ向かう道のりには、278段の「般若心経昇経段」があります。この段数は、般若心経の文字数と同じ数に設定されており、参拝者にとって精神的な修行の一環ともなります。
鐘楼堂は、箸蔵寺の重要文化財に指定されています。この荘厳な建物は、歴史的価値が高く、多くの参拝者が訪れます。
箸蔵寺の本殿は、絶対秘仏として金毘羅大権現が祀られています。その脇士として、不動明王と深沙大将が控えています。本殿内では、蝋燭を灯すことができ、係員が常駐している際は、参拝者に代わって灯してもらえます。
本殿の前には「手水舎」が設置されています。参拝前にここで手を清めることで、心身を浄化してから本殿へ向かいます。
本殿の右奥には「観音堂」がひっそりと佇んでいます。ここには、馬頭観音が祀られており、阿波西国三十三観音霊場の札所でもあります。
箸蔵寺には「大聖不動明王」が石造として祀られています。この不動明王は、四国三十六不動霊場の札所として、多くの信者が訪れます。
箸蔵寺の「御影堂」には、大師像が安置されており、参拝者が拝観することができます。平成元年に建築されたこの建物は、古来から方丈にあった大師像の身代わり仏としての役割を果たしています。
寺院の背後には「ミニ四国八十八ヶ所」があり、江戸時代後期に造られました。四国八十八ヶ所巡りのミニチュア版で、ここで巡礼を終えると納経所で満願証を200円で受け取ることができます。
箸蔵寺では、毎年8月4日に「箸供養」という祭事が行われます。この祭事では、柴灯大護摩や火渡りが行われ、多くの参拝者が訪れます。箸供養は、赤ちゃんのお箸初め(お食い初め)の儀式としても知られており、家族の健康と成長を祈願するための大切な行事です。
また、箸蔵寺では節分の日に「星供養」が行われます。この行事は古来より伝わる伝統的なものであり、節目となる時間を大切にするため、午前0時をまたいで祈念が行われます。全国から申し込まれた数千のお札や御守りがこの夜に祈願され、毎年多くの参拝者が訪れる人気の行事です。
箸蔵寺には、天狗が箸を運ぶという伝説が残されています。地元で古くから語り継がれるこの伝説では、箸蔵山に住む天狗が讃岐の金毘羅大権現のお祭りの際に使用された箸を、その晩のうちに箸蔵寺まで運び納めたとされています。この伝説は、箸蔵寺と金毘羅宮の深い関係を象徴するものとして今も語り継がれています。
箸蔵寺には、以下の6棟の建物が重要文化財に指定されています。これらの建物は、歴史的価値と美しい建築技術が評価され、平成16年(2004年)7月6日に文化財に登録されました。
本殿は、江戸時代末期に建てられたとされ、手前から奥にかけて外陣、内陣、奥殿の3つの部分で構成されています。屋根の構造は複雑で、銅板葺きの屋根が特徴です。また、建物は傾斜地に建てられており、土地の高低差を巧みに活用して各部屋の床の高さが変わるように設計されています。
護摩殿は、本殿と同じく江戸時代末期に建てられました。構造は本殿に似ていますが、奥殿の屋根が宝形造りである点や、屋根が桟瓦葺きである点が異なります。本殿よりもやや小規模ながら、その神聖さと美しいデザインが魅力です。
文久元年(1861年)頃に建立された鐘楼堂も重要文化財に指定されています。寺院の象徴ともいえる鐘楼堂は、参拝者にとって心安らぐ存在です。
方丈は、江戸時代末期、安政3年(1856年)頃に建てられました。この建物は、寺院の管理や行事の拠点として機能しており、歴史的な風格を感じさせます。
薬師堂は、文久元年(1861年)頃に建立され、附属の厨子も重要な文化財です。薬師堂は、信仰の場として多くの参拝者を受け入れ続けています。
天神社本殿も同様に文久元年(1861年)に建立されました。この社殿は、天神を祀る神聖な場所として、多くの信者に愛されています。
箸蔵寺には、国の登録有形文化財に指定されている建物がいくつか存在します。
仁王門は二重門であり、明治13年(1880年)に築かれました。郷土史によると、明治41年(1908年)以前に高知県から移築されたとされています。この門は、寺院の入り口として参拝者を迎え入れる重要な存在です。
高灯籠は明治17年(1884年)に建立されました。かつては吉野川を行き来する舟の目印としても利用され、寺院の象徴的な存在です。
中門は明治前期(1868~1882年)に建立され、寺院内への入口として機能しています。
手水舎は明治29年(1896年)に建立され、参拝者が手や口を清める場所です。寺院参拝の際に重要な役割を果たしています。
観音堂は江戸時代前期に建造された建物で、箸蔵寺の中では最も古いものです。大正時代に徳島市の清水寺から移築され、寺院の中心的な存在となっています。平成17年(2005年)2月4日に徳島県指定有形文化財に指定されました。
高灯籠の手前(標高405m)に駐車してから、48段を上がると仁王門に到達します。そこから真っすぐな参道を進み、石の鳥居をくぐり、さらに214段の階段を登ると分岐点に差し掛かります。右へ進むとスロープを含めて50段で方丈に到達し、さらに上がると方丈の角に納経所が見えます。
より簡単に寺院にアクセスしたい場合は、ロープウェイを利用するのがおすすめです。ロープウェイは、山麓駅(標高160m付近)から方丈の左に位置する山上駅まで、342mの高低差をわずか4分で登ります。
箸蔵寺へは、四国旅客鉄道(JR四国)の土讃線を利用し、箸蔵駅からロープウェイでアクセスできます。箸蔵駅から登山口駅まで約0.5kmで、そこから箸蔵山ロープウェイを利用して山頂駅に到着します。ロープウェイからは美しい山々の風景を楽しむことができ、わずか4分で方丈まで到達します。
自動車で訪れる場合は、徳島自動車道の井川池田ICを利用し、国道32号線を経由して箸蔵山ロープウェイへ向かいます。ロープウェイを利用せずに仁王門前まで車で行く場合、途中の町道は細く注意が必要です。仁王門前には数台分の駐車スペースがあり、そこから徒歩約30分で方丈に到着します。
箸蔵寺の大師堂の裏手から箸蔵山へ向かう途中に、一升水という霊場があります。この場所には、空海が讃岐から当地にやってきた際に杖を突いて湧かせたと言われる泉があります。どんなに乾燥した時でも、一升ほどの水が湧き続けていると伝えられています。
箸蔵寺は四国別格二十霊場の第15番札所として知られ、巡礼者にとって重要な拠点となっています。前後の札所は、14番札所の椿堂(約26.9km)、16番札所の萩原寺(約29.7km)です。
四国三十六不動霊場の第4番札所としても知られる箸蔵寺は、巡礼の旅の中でも重要な立ち寄り先となっています。前後の札所は、3番札所の最明寺(約33km)と、5番札所の密厳寺(約7km)です。
四国三十三観音霊場の第28番札所としても知られる箸蔵寺。巡礼者にとって多くの霊場と結ばれた寺院です。前後の札所は、27番札所の延命寺と、26番札所の嶋田寺です。
箸蔵寺は、阿波西国三十三観音霊場の第23番札所としても知られています。前後の札所は、22番札所の密厳寺と、24番札所の願成寺です。
箸蔵寺は、徳島県三好市に位置する歴史ある寺院であり、四国の霊場巡りや密教の修行の場として、また、豊かな自然に囲まれた観光地としても多くの人々に親しまれています。箸供養や節分の星供養といった伝統行事や、天狗の伝説など、さまざまな魅力が詰まった箸蔵寺は、訪れる人々に信仰と歴史の深さを感じさせてくれる場所です。