橋の名称と開通
当初、長い間「東環状大橋」として知られていましたが、橋の完成が近づくにつれて、正式な名称が公募されました。そして、2012年(平成24年)2月13日に「阿波しらさぎ大橋」と命名され、同年4月25日に正式に開通しました。橋はその技術的な設計と社会的な意義から、平成23年度全建賞を受賞。また、公益社団法人土木学会からも2012年度の土木学会田中賞(作品部門)を受賞しました。
橋の特徴
阿波しらさぎ大橋は、徳島環状線の一部として、吉野川の最下流に位置する橋で、川に架かる日本最大級の橋の一つです。特徴的なのは、世界で初めて「斜張橋形式」と「ケーブルトラスト形式」を組み合わせた「ケーブルイグレット」という形式を採用した点です。この設計は、橋のすぐ下流に広がる干潟に生息する生物や飛来する渡り鳥への影響を最小限に抑えるために考案されました。干潟部分に橋脚を建てないよう、支間長を長くし、タワーを低く設計。また、ケーブルを並列に配置し、側面から見ると1本に見えるような工夫が施されています。
夜間照明の工夫
夜間の照明についても、環境への配慮がなされています。歩道部を低い位置から照らす「高欄内照明」が採用され、橋の外に光が漏れないよう設計されています。これにより、渡り鳥の行動に悪影響を与えることなく、周囲の自然環境との調和が保たれています。
地元への影響と親しまれる存在
阿波しらさぎ大橋は、吉野川河口域の新しいランドマークとしての役割を果たしており、多くの人々がこの橋を利用しています。橋の開通により、地元の住民たちは吉野川を眺めながらの散歩やサイクリングを楽しむことができるようになり、県民に広く親しまれる存在となっています。
渋滞対策と交通の改善
開通時の課題
阿波しらさぎ大橋の建設目的の一つは、徳島市内中心部の交通渋滞の緩和でした。しかし、開通当初、北詰と南詰に設けられた下り道路が片側2車線から1車線に減少していたため、期待されていた渋滞の解消には至りませんでした。
改善策の実施
その後、渋滞の改善を図るための建設が続けられ、2015年3月20日には徳島市城東町へと下る「城東下りランプ」、徳島市安宅へと下る「安宅下りランプ」が開通しました。この結果、交通の分散が図られ、渋滞の緩和が進みました。
未解決の問題
しかし、2015年9月時点では、末広大橋前からの登り口がまだ建設中であったため、徳島県道189号沖ノ洲埠頭線への下り口は開通していませんでした。このため、完全な交通の流れの確保にはまだ課題が残されています。
自然環境への配慮
干潟の保護と橋梁計画
阿波しらさぎ大橋は、徳島市の慢性的な交通渋滞を緩和するために建設されましたが、その建設予定地には絶滅危惧種であるシオマネキなどが生息する吉野川河口干潟が広がっていました。このため、橋の建設が環境に与える影響について議論が起こり、市民の間で賛否が分かれました。
水底トンネル案の検討
当初は、干潟への影響を避けるために水底トンネルを建設する案も検討されましたが、建設費の増加や周辺道路との整合性などの問題があり、最終的には橋梁案が採用されました。採用された橋梁案では、干潟を守るためにさまざまな工夫が取り入れられています。
独自の工法「ケーブルイグレット」
干潟部分においては、橋脚の数を減らすために斜張橋形式が採用され、干潟への影響を最小限に抑えています。この工法は、干潟に飛来するシラサギにちなみ「ケーブルイーグレット(イグレット)工法」と名付けられました。また、橋の主塔の高さを29.5 mと可能な限り低く抑え、ケーブルの本数も1本にすることで、鳥類の飛来への影響を最小限にしています。
光害への配慮
さらに、夜間照明には高欄照明を採用し、橋の外に光が漏れないように設計されています。これにより、渡り鳥や周囲の自然環境に対する影響が抑えられています。
施工段階での工夫
施工段階でも、干潟への直接的な影響を避けるために桟橋を使わず、台船を浮かべて工事が行われました。この工法により、干潟への環境負荷が最小限に抑えられました。
反対運動とその経緯
環境保護団体の反対
阿波しらさぎ大橋の建設に際しては、環境保護団体からの強い反対運動が起こりました。特に、吉野川河口干潟に生息する希少な生物種や渡り鳥への影響が懸念され、市民からも環境保護の視点からの批判がありました。
住民との対話
徳島県はこの問題に対し、地域住民や環境保護団体との対話を重ね、橋梁の設計や建設方法に工夫を施すことで、環境への影響を最小限に抑える努力を行いました。最終的には、橋の建設は続行されましたが、環境保護に対する配慮も重要なテーマとして残されました。
阿波しらさぎ大橋のデータ
阿波しらさぎ大橋の基本的なデータは以下の通りです。
橋梁の規格
- 規格:4種1級
- 設計速度:60 km/h
- 橋長:1,291 m(全体延長1,380 m)
- 構造:ラーメン鈑桁橋(一般部716m)およびケーブルイグレット鈑桁橋(干潟部575 m)
- 幅員:26.3 m - 32.3 m(主塔部)
- 車線数:4車線(両側に歩道)
- 計画交通量:約2万5千台/日
- 事業主体:徳島県
- 事業費:約250億円
- 事業期間:2000年度 - 2012年度(2003年12月6日起工)